名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)3901号 判決 1992年2月07日
原告
株式会社キヨーユーサービス
被告
山村清行
ほか二名
主文
一 被告山村清行及び被告松村勝行は原告に対し、連帯して金四二七万六一〇六円及びこれに対する平成二年九月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告山村清行及び被告松村勝行に対するその余の請求並びに被告株式会社丸利運送に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告山村清行及び被告松村勝行に生じた費用を同被告らの負担とし、原告に生じたその余の費用と被告株式会社丸利運送に生じた費用を原告の負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは原告に対し、連帯して四七二万一四一五円及びこれに対する平成二年九月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事件の概要
本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に、被告山村に対し民法七〇九条に基づき、被告村松及び被告会社に対して民法七一五条に基づき、それぞれ損害賠償を請求する事案である。
一 争いのない事実
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成二年九月一七日午前四時一〇分頃
(二) 場所 名古屋市中川区横井二丁目七五番地先
(三) 加害車両 被告山村運転の大型貨物自動車(尾張小牧一一か六九八六)
(四) 被害車両 原告所有の普通貨物自動車(尾張小牧一一い二九三七)
(五) 態様 加害車両が道路に設置された高さ制限アーム下を通過する際積載の鋼材を同アームに引つ掛けて対抗車線上に落下させたため、対向車線を走行してきた被害車両がこれを避けようとして道路外に転落大破した。
2 責任原因
被告山村には、積載物が右高さ制限アームに引つ掛からないか確認せず通行した過失がある。
被告山村は、被告村松の使用人であり、その業務執行中に本件事故を惹起した。
二 争点
被告会社は、使用者責任を争つている。
また被告らは、本件事故の損害額を争つている。
第三争点に対する判断
一 被告会社の責任
加害車両の車体に被告会社の社名が記載されていたことは当事者間に争いがないが、他方被告山村は、被告松村の使用人であり、右社名の記載以上に被告会社が被告山村に対し実質的な指揮監督関係を及ぼしていたことを認めるに足りる証拠はない。
したがつて、民法七一五条に基づいて被告会社の責任を追求する原告の主張は理由がないといわなければならない。
二 損害
1 車両修理代金(請求二四二万七九九〇円) 二三〇万六五九一円
(一) 甲一、甲一四、乙五の一ないし一三、証人岡田芳忠によれば、本件事故により被害車両は路外に転落大破して、キヤビン・フロントアクスル・荷台のアオリ等を損傷し、フレームを曲損するなどしたため、キヤビン交換等の修理が必要だつたことが認められる(実際には修理は実施されなかつた)。
(二) これに要する費用につき甲一には、部品・工賃の見積額が合計二四二万七九九〇円である旨の記載があるが、証人岡田芳忠(第一、二回)によれば、この見積は、被害車両を分解せずに行われたもので、一部予測に基づく部分が含まれていると認められるから、控え目にこれから五パーセントを控除した二三〇万六五九一円をもつて被害車両の修理代金相当額と認めることができる。
2,427,990×(1-0.05)=2,306,591
(三) これに対し乙四には、修理代金が最大一八六万五九〇〇円にとまる旨の見積の記載があり、被告は、この金額から更に推測に基づいて計上された修理部分の代金六万六〇〇〇円を控除すべきであると主張するところ、証人伊藤正樹によれば、右修理見積は、<1>原則として外観上判明する損傷部分の修理費用に限定したもので、分解しないと判明しない損傷等についてはその修理費用を殆ど計上しておらず、<2>また荷台のアオリについては、純正部品を使用した場合の修理費用を計上したものであることが認められるが、前示のような被害車両の損傷の大きさ等に照らせば、同車両の外観から判明しない部分にまつたく損傷がないと考えるのは明らかに不合理であるし、また右<2>の点は実際の被害車両に特注品のアオリが装備されていた事実を無視しているのであり、これらの点に照らすと、右乙四の記載から容易に前示の認定を左右することができず、被告らの主張にも理由がないといわなければならない。
2 レツカー代(請求も同額) 二五万五〇〇〇円
甲一、証人岡田芳忠(第一回)によれば、右金額が認められる。
3 積荷損(請求も同額) 六万五〇〇〇円
甲二、甲三、証人岡田芳忠(第一回)によれば、本件事故のため被害車両に積載していた真空タンクが損傷し、荷主に対する賠償金及び再塗装費用として右金額を要したことが認められる。
4 休車損害(請求一五七万三四二五円) 一二九万九五一五円
(一) 甲四、甲一一の一ないし三、甲一二、乙六、証人岡田芳忠(第一、二回)によれは、<1>原告は、本件事故当時管理職二名、運転手四三名を雇用し、二トンないし一一トンのトラツク四四台を保有する一般貨物運送業の会社であつたが、いわゆる予備車両は保有しておらず、被害車両の運休によりその売上額相当の損害を被つたこと、<2>被害車両は、従前原告の管理職等が交替で乗車していた四トントラツクであつたが、平成二年八月二〇日から押川悦夫がその専属運転手に決まつて運行形態が大幅に変わり、右同日から同年九月一四日までの二六日間に合計九九万三三五六円(一日平均三万八二〇六円)の売上があつたこと、<3>これに対し、原告における被害車両と同型の四トントラツクの平成二年五月ないし七月の三か月の燃料費は合計三二万九四二〇円(一日平均三五八一円)、右期間のエンジンオイル及びエレメント代は合計八八〇〇円(一日平均九六円)であり、原告は、被害車両の修理期間中一日当たりほぼこれと同額の燃料費、エンジンオイル及びエレメント代の支出を免れ得たと考えられること、<4>そのほか原告は、被害車両の専属運転手であつた押川に対する平成二年九月一八日から三〇日まで一三日間の給与一三万円の支払を免れたことが認められる。
(二) そうすると、休車損害算定の前提となる被害車両の一日当たりの収益(売上額からいわゆる変動費を控除したもの)を推測するに当たつては、右(一)<2>の一日平均の売上額から、同<3>の一日平均の燃料費、エンジンオイル及びエレメント代を控除した残額(三万四五二九円)から、その他の変動費として車両修繕費等を控除する必要があるところ、甲一〇(平成元年度自動車運送事業経営指標)には、保有車両二一台ないし五〇台の区域トラツク運送業者の総経費に占める燃料費と修繕費用の割合がそれぞれ六・七六パーセントと五・〇九パーセントであるとの統計資料があることも考慮して、これを控え目に右残額三万四五二九円から八パーセントを控除した一日当たり三万一七六七円を下らないものと推認するのが相当である(右給与の控除については後示のとおり)。
34,529×(1-0.08)=31,767
(三) そして、甲一四、証人岡田芳忠(第二回)によれば、本件事故による被害車両の修理には四五日を要したであろうことが認められるから、結局本件事故による原告の休車損害は、原告が支出を免れた押川の給与も控除して、次のとおり一二九万九五一五円となる。
31,767×45-130,000=1,299,515
(四) これに対し、被告らは、原告の休車損害は、本件事故後の原告全体の売上の減少を基礎として算定されるべきであると主張するが、原告全体の売上額は、被害車両が運行できなかつた事実のほか、注文の件数、荷物の量、運送距離等によつても左右されるものであるから、右注文の件数等の前提条件が同一でない以上、本件事故の前後における原告主体の売上額を比較しても、被害車両の休車損害についてなんらかの意味のある推測をすることは困難であると考えられ、右主張を採用することはできない。
5 弁護士費用(請求も同額) 三五万円
本件訴訟の審理経過、認容額等に照らし右金額が相当と認められる。
三 結論
以上の次第で、原告の被告山村及び被告松村に対する請求は、連帯して、右損害合計四二七万六一〇六円及びこれに対する本件事故発生の日である平成二年九月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告会社に対する請求はすべて理由がない。
(裁判官 夏目明德)